「とりとめのない余談として」(楢﨑瑞)

「とりとめのない余談として」(楢﨑瑞)


「とりとめのない余談として」(楢﨑瑞)
「とりとめのない余談として」

 

11月12日 vs山形(△2-2)

 

 

終わるな、まだ終わるな。

 

 

試合終了間際、記者席でそんなことを呟いている自分に気付いた。

 

ただそれは、

「なんとかゴールを」「なんとか勝利を」…そういう意味での「終わるな」ではなかった。

 

 

 

勝ち負けよりも何よりも、ただもう少しだけ、この試合を、サッカーを見ていたい。

だから、まだ終わるな。終わってくれるな。

 

 

言いようのない寂しさに気付いたとき、長い笛が鳴った。

 

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2016年2月28日。

 

ほとんど90%の不安と、8%の強がりと、2%の期待で始まったシーズン。

 

開始5分、飛び出した岸田和人の折り返しに島屋八徳が反応。

 

まるでボールが吸い込まれるように決まったゴールに、拳を握りしめた。

 

 

「いける、やれる。J2でもやれる」

 

 

 

あれから9か月。

 

 

 

維新スタジアムでの、ホーム最終戦。

山口での、今シーズン最後の試合。

 

 

去年のホーム最終戦と同じく、引き分けに終わった。

 

 

 

「ゴールは嬉しい。ただ、勝つということが目標だったので…」

一時、勝ち越しとなるゴールを決めた福満隆貴は、厳しい表情のまま話した。

 

「ホーム最終戦。特別な気持ちもあったので…内容より結果が欲しかった」

 

 

1年間取材を続けてきて、

少なくとも、選手たちが今季の成績に満足しているようには見えない。

 

 

 

「まだやれたはず。勝負できたはず」

 

 

そんな声も多く聞く。

 

 

 

「最終戦、しっかり勝って終われるように。そうすることで来年に繋がると思いますし」

 

 

同点ゴールを決めた鳥養祐矢は、

 

こちらが気圧されそうなほど力強い表情で話した。頼もしさすら感じる。

 

 

続けて、

 

 

 

 

「このメンバーでやる試合も残り1試合ですし」

 

 

 

 

 

 

そうか。そうだよな。

言いようのない、寂しさの正体はこれか。

 

 

JFLからJ3に、J3からJ2に。

いつだってチームは一丸で、しかし毎年のように生まれ変わってきた。

少しずつ、選手は変わっていくのである。

 

 

新たに入るものもいれば、去る者もいる。

それが、この世界の掟だから。

 

 

 

来年も、ワクワクするようなレノファのサッカーは見られるのだろう。

今年苦しんだ分だけ、荒波にもまれた分だけ、年輪は幾重にもたくましくなるのだ。

 

 

ただ、今年と変わらぬこのメンバーで、とは限らない。

 

 

詮無きことだ。

されど募る寂しさは拭えない。

 

取材する人間として、これではいけないと思いながら感傷に浸る。

 

 

 

 

 

「まだ1試合あるので」

 

 

 

 

 

 

福満の声でハッと我に返る。

 

 

 

「90分間。楽しみながら、必ず勝点3を取って帰ってきたいと思います」

 

 

最後まで諦めない姿勢を見せたい。

インタビューも、試合も、いつだって全力を見せてくれる背番号7に、

「勝手にシーズンを終わらせるなよ」と言われた気がした。

 

 

たぶん気のせいだろうけど、気のせいじゃない。

 

 

しんみりするのは、まだ早い。

まだ、今シーズンは1試合残っている。

 

 

彼らと、彼らに関わる全ての人たちの頑張りでたどり着いたJ2の舞台。

その初めての道のりを、見届けなければ。

 

 

別れはやってくる。いずれ。

勝利にひたむきになったこの季節が、思い出に変わる日がやってくる。必ず。

 

でも、今はまだ。

 

どんな結末が待っていようとも、すべてを見届けよう。

「ありがとう」と「がんばれ」を、声援とまなざしに込めて。

 

 

この景色を見せてくれて、

ここに連れてきてくれてありがとう。

 

 

 

「全員で一丸となって、ファン、サポーターの力を借りながら勝ちにいきたい」

変わらずまっすぐなまなざしの鳥養が、結びの言葉を口にする。

 

 

トリくん、そこに俺も混ぜてくれ。

他のサポーターと場所は違えど、俺もその輪に加わろう。

追い求めた、勝利のために。未来のために。

 

 

 

 

さぁ、行こう。ラストゲームだ。

寂しさも、別れの言葉も、最後の長い笛が鳴ったあとでいい。

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