「とりとめのない余談として」(楢﨑瑞)
「とりとめのない余談として」(楢﨑瑞)
「とりとめのない余談として」(楢﨑瑞)
「とりとめのない余談として」
11月12日 vs山形(△2-2)
終わるな、まだ終わるな。
試合終了間際、記者席でそんなことを呟いている自分に気付いた。
ただそれは、
「なんとかゴールを」「なんとか勝利を」…そういう意味での「終わるな」ではなかった。
勝ち負けよりも何よりも、ただもう少しだけ、この試合を、サッカーを見ていたい。
だから、まだ終わるな。終わってくれるな。
言いようのない寂しさに気付いたとき、長い笛が鳴った。
***********************************************************************************
2016年2月28日。
ほとんど90%の不安と、8%の強がりと、2%の期待で始まったシーズン。
開始5分、飛び出した岸田和人の折り返しに島屋八徳が反応。
まるでボールが吸い込まれるように決まったゴールに、拳を握りしめた。
「いける、やれる。J2でもやれる」
あれから9か月。
維新スタジアムでの、ホーム最終戦。
山口での、今シーズン最後の試合。
去年のホーム最終戦と同じく、引き分けに終わった。
「ゴールは嬉しい。ただ、勝つということが目標だったので…」
一時、勝ち越しとなるゴールを決めた福満隆貴は、厳しい表情のまま話した。
「ホーム最終戦。特別な気持ちもあったので…内容より結果が欲しかった」
1年間取材を続けてきて、
少なくとも、選手たちが今季の成績に満足しているようには見えない。
「まだやれたはず。勝負できたはず」
そんな声も多く聞く。
「最終戦、しっかり勝って終われるように。そうすることで来年に繋がると思いますし」
同点ゴールを決めた鳥養祐矢は、
こちらが気圧されそうなほど力強い表情で話した。頼もしさすら感じる。
続けて、
「このメンバーでやる試合も残り1試合ですし」
そうか。そうだよな。
言いようのない、寂しさの正体はこれか。
JFLからJ3に、J3からJ2に。
いつだってチームは一丸で、しかし毎年のように生まれ変わってきた。
少しずつ、選手は変わっていくのである。
新たに入るものもいれば、去る者もいる。
それが、この世界の掟だから。
来年も、ワクワクするようなレノファのサッカーは見られるのだろう。
今年苦しんだ分だけ、荒波にもまれた分だけ、年輪は幾重にもたくましくなるのだ。
ただ、今年と変わらぬこのメンバーで、とは限らない。
詮無きことだ。
されど募る寂しさは拭えない。
取材する人間として、これではいけないと思いながら感傷に浸る。
「まだ1試合あるので」
福満の声でハッと我に返る。
「90分間。楽しみながら、必ず勝点3を取って帰ってきたいと思います」
最後まで諦めない姿勢を見せたい。
インタビューも、試合も、いつだって全力を見せてくれる背番号7に、
「勝手にシーズンを終わらせるなよ」と言われた気がした。
たぶん気のせいだろうけど、気のせいじゃない。
しんみりするのは、まだ早い。
まだ、今シーズンは1試合残っている。
彼らと、彼らに関わる全ての人たちの頑張りでたどり着いたJ2の舞台。
その初めての道のりを、見届けなければ。
別れはやってくる。いずれ。
勝利にひたむきになったこの季節が、思い出に変わる日がやってくる。必ず。
でも、今はまだ。
どんな結末が待っていようとも、すべてを見届けよう。
「ありがとう」と「がんばれ」を、声援とまなざしに込めて。
この景色を見せてくれて、
ここに連れてきてくれてありがとう。
「全員で一丸となって、ファン、サポーターの力を借りながら勝ちにいきたい」
変わらずまっすぐなまなざしの鳥養が、結びの言葉を口にする。
トリくん、そこに俺も混ぜてくれ。
他のサポーターと場所は違えど、俺もその輪に加わろう。
追い求めた、勝利のために。未来のために。
さぁ、行こう。ラストゲームだ。
寂しさも、別れの言葉も、最後の長い笛が鳴ったあとでいい。